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高森明勅
2020.10.21 06:00皇統問題

皇嗣、皇太子、皇太孫

皇位継承順位が(その時点で)第1位の皇族を「皇嗣(こうし)」と呼ぶ。
その皇嗣が天皇のお子様(皇子)の時は「皇太子」と称する。
お孫様(皇孫)なら「皇太孫(こうたいそん)」(当然、皇太子の不在が前提となる)。

皇太子と皇太孫は「直系」の皇嗣で、世代は天皇の次(皇太子)か、
更にその次(皇太孫)。
なので、次の天皇になられることが(規範・理念として)確定している。
では、皇太子でも皇太孫でも“ない”、一般的な皇嗣の場合はどうか。

「傍系」の皇嗣で、世代も天皇と同じか、上のケースさえあり得る。
次の天皇になられることは必ずしも確定していない
(だから皇太子の地位を示す「立太子〔りったいし〕の礼」は
勿論〔もちろん〕前例があるが、「立皇嗣〔りっこうし〕の礼」は
これまで行われたことが無い)。

例えば、昭和天皇の弟宮(おとうとみや)の秩父宮(ちちぶのみや)の場合。
上皇陛下が、皇太子としてご誕生(昭和8年12月23日)になる瞬間までは、
何年も皇嗣であられた。

しかし、上皇陛下がお生まれになると同時に、継承順位は第2位に移り、
もう皇嗣ではなくなられた。
又(また)、もし上皇陛下に親王がお1方しかおられなかったら、
今上(きんじょう)陛下のご即位と共に、上皇陛下の弟宮の常陸宮
(ひたちのみや)殿下が皇嗣になられたはずだ。
その時は、天皇陛下より皇嗣殿下の方が一世代上になる。

こうしたケースでは、皇嗣が実際に即位されることは
(不測の事態でも起こらない限り)ないだろう。
皇嗣というのは、そのようなお立場だ。
だから、皇室典範は皇太子・皇太孫については、当然ながら皇籍離脱の
可能性を一切、排除している一方、いささか意外なことに、
一般的な皇嗣にはその可能性を否定していない(第11条第2項)。

次の天皇になられることが確定したお立場ならば、
とてもこんな制度は考えられない。
摂政への就任順序も、先ず“第1号”に「皇太子又は皇太孫」が挙げられ、
次いで“第2号”として「親王及び王」が掲げられている(第17条第1項)。

皇太子・皇太孫でない皇嗣の場合は、
この第2号の筆頭に位置付けられている格好だ(同条第2項)。

更に「摂政(せっしょう)」の更迭(こうてつ)について、
以下のような規定があるのも、見逃せない。

天皇が未成年か、決定的な故障(重患又は重大な事故)がある場合、
摂政が立てられる(第16条)。
だが、その摂政又は摂政になる順位に当たる皇族も同様の事情
(未成年・決定的な故障)がある時は、皇室会議の議決によって、
皇位継承の順序が次の皇族が代わって摂政に就任する(第18条)。

その上で、摂政への就任順序が本来は”先”だった皇族に
上記の事情が無くなった場合、どうするか。
その皇族が皇太子又は皇太孫で“なければ”、そのまま(第19条)。
つまり、一般的な皇嗣なら、摂政就任を妨げた事情が解消しても、
皇太子・皇太孫のケースとは異なり、摂政にはならないということ。

他にも、皇太子・皇太孫が天皇と同様、18歳で成年を迎えられるのに対して、
一般的な皇嗣は他の皇族と同じく20歳とされている(第22条)、
という相違もある。

直系の皇嗣である皇太子・皇太孫と、傍系の一般的な皇嗣とでは、
このように大きな違いがある。
11月8日に予定されている「立皇嗣の礼」は、
秋篠宮殿下が上記のような意味で“一般的な皇嗣”でいらっしゃる事実を、
改めて内外に示す意味を持つに過ぎない。

現に、天皇陛下より僅か5歳お若いだけの秋篠宮殿下が、
陛下がご高齢を理由に譲位された後、実際に即位されるとは考えにくい。
従って、一部メディアに「秋篠宮殿下が次の天皇になられることをお披露目
(ひろめ)する儀式」といった報道が見られるのは、不正確だ。

今後、政府・国会で皇位の安定継承を目指して検討する場合にも、
秋篠宮殿下が次の天皇になられることを、恰(あたか)も
既定の事実であるかのように捉え、そこから議論をスタートさせては、
方向性を誤る。

あくまでもゼロベースで、最も妥当かつ実現可能な解決策を求めなければならない。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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